モアサナイト vs ダイヤモンド、多視点から比較した考察

モアサナイトは、宇宙からの贈り物

と、ロマンチックとも言える表現で形容されるモアサナイト(モアッサナイト)。

人類との出会いは他の一般的なジェムストーンと比べると非常に最近のことで、なんと1893年。アメリカ合衆国アリゾナ州の、キャニオン・ディアブロ隕石の衝突跡より、天然のモアサナイト(炭化ケイ素)が初めて発見されました。

地球上において天然のモアサナイトが産出されることは極めて稀で、そのほとんどは隕石中に存在します。

そんなモアサナイトをはじめて人工的に作り出すことに成功したのが、アメリカのチャールズ&コルバード社。同社のアメリカにおける製造特許が2015年に有効期限を迎えたことをきっかけに、世界各地で製造することができるようになり、高品質の合成モアサナイトを利用したジュエリーが広く流通するようになりました。

モアサナイトは人工のダイヤモンドなのか

先にシンプルな結論を言わせていただくのならば、答えは「NO」です。

モアサナイトは、無色透明でダイヤモンドに次ぐ硬度を持ち、肉眼で見るとダイヤモンドによく似た輝きを持つ石ですが、宝石としての性質から見るとダイヤモンドとは全く異なる石です。

ダイヤモンドは炭素のみで構成される鉱物で、分子構造が異なり、鉛筆などに使用されている黒鉛(グラファイト)などと同じ原子からできています。一方、モアサナイトは炭化ケイ素から成り、ダイヤモンド型の構造の中に炭素とケイ素が交互に積み重なった状態で構成され、ダイヤモンドとシリコンの中間のような性質を示します。

「モアサナイト・ダイヤモンド」などと称されることもあるので混同しがちではありますが、上記のように全く異なる鉱物です。

ダイヤモンド vs モアサナイト ~硬さ~

やはり現実問題としてダイヤモンドと比較されることがどうしても多いモアサナイト。
ここからは、その比較について少しご紹介できればと思います。

鉱物に対する硬さの尺度としては、一般的に「モース硬度」と呼ばれる基準が用いられます。この基準に拠れば、モース硬度において地球上で最も硬いダイヤモンドの硬度10に対して、モアサナイトの硬度は9.25-9.5と、宝飾石の中ではダイヤモンドに次ぐ硬度を持ちます。

このモース硬度の測定数値は、既に硬度が既知である10種類の物質(硬度1から、滑石、石膏、方解石、蛍石、燐灰石、正長石、水晶、トパーズ、コランダム、ダイヤモンド)と未検試料を擦り合わせて、どちらに傷がついたかによって相対的に硬度を測定する方法で、あくまでも「引っかきに対する硬度」を定めた基準であり「衝撃に対する硬度」とは関係がありません。モース硬度10のダイヤモンドも、ハンマーなどで一方向から力を加えると容易に割れます。

 ダイヤモンド vs モアサナイト ~輝き~

宝石の輝きの強さや虹色のきらめき(ファイア)は、一般的に「光の屈折率」と「光の分散度」で数値化されます。

こちらはダイヤモンドの屈折率が約2.42に対してモアサナイトが約2.65-2.69、分散度についてはダイヤモンドの約0.044に対し、モアサナイトが約0.104とほぼ2.5倍の数値です。

“屈折率”とはその名称の通り、「光が物体を通り抜ける際にどれだけ角度が変化するか」ということを示します。この角度が深く、また複雑であるほどに人間の眼には輝きが強く映ります。この屈折を科学的に徹底的に分析し、より美しく輝くように計算され尽くしたのが、現代におけるダイヤモンドのカット形状です。

後者の”分散度”とは、白色光線が鉱石中で屈折反射することによって、”白色”を構成する各色の光に分解される度合いを示したもので、一般に虹色の其々両端に当たる赤色と紫色の屈折率の差により示されます。この分散度におけるダイヤモンドとモアサナイトの差は前述の通りで、これが「モアサナイトはダイヤモンドの2.5倍の輝きを誇る」などと言われている所以ですね。

ダイヤモンド vs モアサナイト ~お手入れ~

ダイヤモンドを構成する炭素原子は皮脂をはじめとする地球上の様々な物質と親和性が高く、日常的な着用による汚れを吸着してしまいやすいという性質があります。一方モアサナイトは皮脂等との親和性が低く、さすがにメンテナンスフリーとはいきませんが、より少ない頻度のお手入れでも曇りにくく、また輝きが長く持続します。

硬度を比較した文の中で少し触れましたが、ダイヤモンドは一方向から力を加えると簡単に割れてしまいます。これは、劈開性という性質によるもので、昔からダイヤモンドのカット細工をする職人はこの性質を利用してダイヤモンドの原石からよく見かけるキラキラ輝く宝飾用の裸石を作ってきました。ダイヤモンドがついたリング等は、落としたり、ぶつけてしまったり等をしてしまいますと、石のガードル部分(ダイヤモンドを横から見たときの縁の部分)がかけて見栄えを損なったり、割れてしまったりします。

モアサナイトには劈開性が無いためカット研磨が難しい宝石でもあるとされていますが、その分ダイヤモンドより割れにくく、引っ掻きによる耐性もダイヤモンド程でないとはいえ、これまでダイヤモンドに次ぐモース硬度と言われていたサファイアよりも硬く、総合的な耐久性はダイヤモンドと比較しても劣らない、宝飾品にはとても適した宝石であると言えます。コストパフォーマンスの面から見ても、モアサナイトは人工的に作られますので、形のアレンジの自由度が高く、またダイヤモンドと比べて安価なため、日々のご愛用によって劣化してしまった石の取り替えも比較的容易です。メンテナンスにかかる費用の面から見ても、ストレスフリーで思いっきりその輝きを楽しんでいただけるジュエリーです。

ダイヤモンド vs モアサナイト ~熱耐性~

ダイヤモンドは前述のように炭素原子のみで構成されており、熱にあまり強い部類の鉱石ではありません。約600℃で黒鉛化がはじまり、約800℃で炭化、約1000℃を超える温度に長時間さらされると、最終的には二酸化炭素となり消滅します。

もちろん日常における一般的な使用範囲で致命的な問題が発生するようなものではありませんが、熱を加えると表面が曇ったりする場合もありますので注意が必要です。

モアサナイトの構成原子となる炭化ケイ素は工業用耐熱部品としても用いられるほどで、一般的には空気中で1500-1600℃程度まで安定して存在できると言われています。ジュエリー等宝飾品の加工には熱がつきものです。耐熱性の高いモアサナイトは、ジュエリーデザインの幅をグッと広げてくれる宝石でもあります。

ダイヤモンド vs モアサナイト ~価格~

同グレードのモアサナイトとダイヤモンドの比較において、モアサナイトは1カラットあたりの価格は天然ダイヤモンドの約20分の1程度と言われています。ジュエリーにお仕立てをすると、大体10分の1程でご製作が可能。高品質なものをリーズナブルな価格で入手することができます。

よく耳にする「婚約指輪は給料の3ヶ月分」は、実はダイヤモンドの大手流通会社がキャンペーン時にキャッチコピーとしてマーケティングに用いたもの。ショッキングでキャッチーなこのコピーは戦後から現在に至るまであちこちで見かけますが、戦後と今では経済状況も物価も異なるのであまり鵜呑みにする必要はありません。婚約指輪は、ダイヤモンドを使うことが多いですが、最近はモアサナイトを選ばれる方も増えてきていると感じています。現在の日本では30万~40万円程が結婚指輪の相場だと言われていますが、モアサナイトの婚約リングを作る場合、相場の大きめの石を使ったお仕立てが相場の3分の1ほどで出来ます(当店でお仕立てする場合)。

安いとはいえジュエリーのお仕立ては、お安いお買い物ではないですよね。
過去に婚約指輪のご依頼をしてくださったお客様は、パートナー様との旅行や住む部屋に備える家具家電を少しいいものにする等、他のことに予算を充てることができるとおっしゃっていました。

モアサナイトジュエリーは「”倫理的な”ジュエリー」である

エシカルジュエリー、エシカルな宝石などと表現されることも多いモアサナイト。この”エシカル”とは”倫理的”や”道徳的”といった意味の英単語で、地球環境や社会、また人などに配慮された消費行動や商品などに対して昨今よく使われます。”サステナブル”などとも非常に親和性の高い言葉ですね。

具体的には、モアサナイトは製造過程において誰も虐げられることがなく、軽い環境的負荷で(人工モアサナイトの製造にかかる消費エネルギーは、人工ダイヤモンドのそれと比較して1/100程度と言われています)、持続可能な方法で製造することが比較的容易であると言える宝石です。

天然ダイヤモンドをはじめとした希少な天然宝石は、その性質上、どうしても内戦などにおける紛争資金に繋がったり、採掘に伴う大量のCO2排出による環境負荷、そして鉱山における労働者の健康被害や児童労働などの様々な問題点と完全に切り離すことが難しい側面を持ちます。

もちろん、それらついて十分に配慮して取引されている天然宝石も存在しますが、モアサナイトはより一層、そういった諸問題についての懸念が少なく、クリーンに手に入れることが容易な現代社会にマッチした製品であると言えます。

終わりに

モアサナイトは安っぽい、などというイメージを持たれている方が中にはおられるのも事実であるかと存じます。

実際に、いくら高度な技術が必要であるとは言え、工場で人工的に製造が可能なモアサナイトは、限られた資源である天然ダイヤモンド等と比較した場合、希少価値として劣ることは否定できません。

しかし、そういった側面を抜きに、”ジュエリーとしてのモアサナイト”としてフラットに見た場合はどうでしょうか。必ずしも、”安っぽい”などといった安直な評価をされるべきではない程の価値を備えた宝石ではないでしょうか。

商品の価値や品質だけではなく、その生産や販売背景における倫理性や持続可能性、人権や環境への配慮などに大きく注目が集まる近年。

そういった点に敏感な新しい感覚を持つ、先進的な人たちに選ばれることが徐々に増えているモアサナイトには、こういった理由があるのかもしれませんね。

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